小説 novel

短編小説1

戦争部の休日 ~戦力の平時利用1~

▲4八飛
主砲を4筋に据えて、前線の動向を伺う。
敵陣の4筋は手厚い。正面突破では戦力を削がれる。何か曲線的なギミックが必要だ。
▲3七桂
曲射砲を繰り出す。狙いは▲2五桂の跳ね出しによる上面圧迫・・・・・・ではなく、5筋への殴り込みである。3三への働きかけを見せ球にして、5筋が空けばみっけものだ。
音を立てて喉で呼吸をする。
瞼の裏がちかちかする。
静寂が訪れる。
脳内で駒が動き出し、限界を超えた思考速度と焦燥が紡ぎ出す極上の高揚が体表面を駆け巡る。法悦にも似た発泡感で意識を喪いそうになったとき・・・・・・。

「はいっ。▲5七玉」
 無邪気に最悪手を放つ阿呆がいた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっっっ!!! もうぅっっ!! 何やってるんですかっ。わたしが細心の注意と緻密端麗な戦略眼で右辺に理想的な攻撃陣を敷いているというのに、何で王様が丸裸で特攻していくのです!」  阿呆は愛らしさの頂点を極めた瞬きを2つくれると、コロニアルホワイトの羽毛を攪拌したような声で宣った。水色の視線は冬の日だまりを彷彿とさせる。
「だって、将棋の駒の初期配置って、

金 金

なんだよ!?
金がこの配置だったら、玉はここでしょお??

  玉

金 金」

いや、そこは玉じゃなくて竿でしょ。
 と言おうとして踏みとどまった。きっと傾国系はそんな発言はしないのだ。ってゆうか、問題の焦点はそこにはない。下ネタにつきあったらダメだ。下ネタにつきあったらダメだ。負けだ負けだ負けだ。
「かっ、形じゃなくて、わたしは防御力のことを論じているのです。玉が前に出て行ったら・・・・・・」
「唯、早く指せ。チェスクロックを壊す羽目になるぞ」
 正論は戦女神のアルトに蹴散らされた。
 白皙の頬には赤みが挿し、通った鼻筋と顎に添えた指先は隠しきれない愉悦に震えている。致命傷をくれてやる前に獲物を嬲る猛禽類の仕草だ。黒髪は艶を帯び、薄い灰色の瞳が酷薄に浄化される。
 上等である。
 戦場では敵うべくもないが、盤上では身体能力もくそもない。
 わたしはこの先輩に一矢を報いるべく、深謀の自陣角を放とうとして・・・・・・。
「ほら、唯ちゃんこれをごらんよ!」
 おおきなペニスに視界をふさがれた。
「むぎゅっ。うわっ、さわっちゃった!♡ 何ですか、これっ」
「唯ちゃんが玉と金には防御力がないなんてゆうから、反証を掲げようと思ったんだよぅ」
「反証がなんでテニスボールとペットボトルで作ったディルドなんですか? ってゆうか、それ振り回さないでください!」
「この金と玉の並びが美濃囲いふうでしょぅ。あたし、美濃囲い好きなんだよぅ」
 阿呆はおおきな自慰遊具をぶんぶんと玩弄する。迷惑だ。
 ってゆうか、きっと肥後ずいきと間違えてる。
 この場の生ける規律たる部長に助けを求めるが、戦女神は架空の戦闘に明け暮れているらしく沈思黙考の大海原でわたしの救難信号に気付かない。冷徹な美貌を掠っていくペニスにもお構いなしだ。
「この配置はね? 実は優れた防御を兼ね備えてもいるんだよぅ。だって、裏筋の部分が・・・・・・」
 阿呆がひときわ高くペニスを振りかざしたとき、
「ちょっと戦争部のみなさん! お話がございます!!」
 悲劇の幼女が生物準備室の引き戸を開けた。
 綺麗な等速円運動は、
 実用に供するにはかなりオーバーサイズな即席ディルドを、
 幼女の顔面まで、世界の摂理のように導いた。
「ん、んんっ❤」
 幼女はペットボトルのマウスピースを小さな唇の奥まで含んで、
 恍惚とした表情でえずき上げた。

「平時活動要請? なんのことだ?」
 黎先輩がきつい目をオブラートに包みもせずに言う。左手には指揮杖を持っている。こわい。
「無駄飯を食べさせる余裕はないと言うことですわ」
 佐藤さんが放言する。
 大型の猛禽類に立ち向かう兎の風情。
 庇護欲をかき立てる。
 しかし、この兎は毒兎だ。
 喰らうと守銭奴の病にかかる。不治の病である。

 嫁き遅れた遅い春が日だまりとなってわだかまる気怠い午後。
 生物準備室は今日も今日とて開店休業中で、
 黎先輩は30mm対戦車砲の徹甲弾をバラして炸薬を交換するという危ない趣味に没頭し、
 芙美ちゃんはしみ一つない雪白のふとももを惜しげもなくさらし乳液を塗りたくりながら、この乳化剤分離できるかしらなどと不穏なことをつぶやいている。
 わたしは、まだ唯は新人研修の課題が終わっていなかったなと黎先輩に機先を制され、大戦略キャンペーンⅨを難易度★★★★★でやらされていた。くそっ、初期ターンで一隊のレオパルドも生産できない。わたしは補給部隊と工兵隊にすべての資金を投入した。
・・・・・・むしゃくしゃしてやった。今は反省している。

 春とも夏とも言い切れない中途半端な陽気は、
 発展途上とも死体製造器とも言い切れない中途半端な戦争部に、
 中途半端な出動要請を持ち込んできた。

 幼女は怒っていた。
 眦にはまだ涙の粒の痕がある。
 ずいぶん大きなのを咥えて・・・・・・。
 しばらく陶酔していたためだ。
 小作りな手のひらは、どんなに粗末なディルドを握らせても手に余りそうで。
 高い位置でまとめたポニーテールはペットボトルに陵辱されている間中、煽情的にそよいでいた。
 「軍っていうのは、平時は訓練と思い出作りに勤しむものでしょう?」
 芙美ちゃんがストレートのあとのチェンジアップのような口調で不満の声をあげる。基本的にこの人は働きたくないのだ。しかし、その台詞は幼女の神経を、膣壁に突き込まれた肥後ずいきのごとき精度で逆なでする。

「あなたは入学数週間でもう一生分の思い出を作ったでしょうに!! 人の迷惑も顧みずっ!!! 戦争委員会が新入生向けに委託し、そのぬるさで『新歓合コン』とまで呼ばれる導入ミッションがうちだけ『新歓強姦』と呼ばれたんですのよ! まだまだ難易度が低くて人死にが出ないと定評のあるゴールデンウィークの慣熟ミッション『黄金週間』が、ウチは『遺言週間』なんですのよっ!! 恥はじ恥はじ恥はじ恥はじ恥はじわたくしはもう穴があったら入りたいですの。長い生徒会の歴史を愛蔵版議事録で紐解いても、ここまで負けた戦争部は例がありませんわっ。何が思い出作りですのっっっ!!!」
 錬金術師が吝嗇に吝嗇を重ねて吝嗇でラッピングした表情でぶち切れる。
「あたしは生まれたての子兎みたいに、寂しいと死んじゃうんだよぅ。思い出にくるまれていないとだめなんだよぅ」
 愛玩人形の容姿を誇示するかのように、金髪の少女は厚めの口唇を尖らせて儚い声をほころばせる。しかし、佐藤さんはちっとも感銘を受けなかったようだ。
「いっそホルムアルデヒドでくるんで差し上げますですの」
「お肌にぷつぷつができちゃう。あたし、佐藤さんみたく顔の皮が厚くないの」
 だまれこの雌狐!
 ふざけるなこの守銭奴!!
 迷惑なトムとジェリーは、しかし喧嘩をしていてもちっとも仲が良さそうではなかった。
「さわぐな! 埃が立つ!!」
 黎先輩が隷下の兵を畏怖させずにはおかないアルトで一喝する。じゃれていた雌狐たちは一応口を閉じたが、やや白けた気配が滲むのは隠せなかった。
「いつもいつも指揮杖振り回して埃を立てるのは、時雨さんじゃありませんの」
「杉の季節でもないのに鼻炎が止まらないから、たまにはお掃除しようって言うのに、一航戦のモデルの備品がなくなるからって、やらせてくれないよぅ」
「あれはお前が友永大尉の97艦攻を壊しちゃったからだろ!」
 そんな昔のことをぐちぐち言ってると、勝てる戦も勝てないよ。
 逆だ! 鳩みたいに三歩歩んで忘れてたら、勝てなくなるんだろう!?
 終わる気配のない寝言の輪舞に、わたしはかるい眩暈を感じ、マニキュアの指かざしてみるの。って、わたしいくつなの? 昭和生まれ!? しかも30年代??
 語り手が密かに絶望していると、錬金術師が言うべきことを言った。
「とにかく!! 織田の弱兵ではないのですから、農閑期には田植えでもなんでもして働いて頂きますの! 戦争部のみなさんは学院の赤字を異様なまでに跳ね上げているのですわっ! ABC分析をすればどんなに愚昧な学生でも、純度100%の自信でグループAに分類しますの」
 え~~~~っ。あたし蟹工船とか乗りたくないなあ。だって紙より重いもの持ったことがないんだもん。愛玩人形が痴れ言をほざく。
「あなたがいつも愛用している謎のポーチは、紙の何万倍も重そうですが、ってゆうかなんで蟹工船なんですの」
「あたし深窓の令嬢だから、働けっていわれても俄には蟹工船しか思いつかないよぅ」
 男の子の趣味同様、読書傾向もだいぶ偏っているようだ。そんな大人は修正してやらなくては。
 とはいえ、問題は眼前の労働である。佐藤さんの機嫌を損ねて、蟹工船に乗せられるような事態は避けねばならない。いや、興味あるけどね! カムサツカ体操!
「・・・・・・具体的には、何をすればいいんでしょう?」
 おずおずと切り出してみた。
 佐藤さんはかわいい女の子が好きなので、匂い立つ儚さを演出したのだ。がんばれ、わたしっ。
「チアリーダーですわ」
 しかし、まぁまぁまぁなんてかわいいのでしょうこんな少女むしろ幼女にろうどうなどさせられないわろうどう?いえむしろわたしのひしゃたいとしてろうどうでどうどうしてもらおうかしらうふふうへへあらわたくちとしたことがなにをかんがえているのかしらはしたなしまいかぜさんのせいよええそうよへんたいかぜをふかしおってといったたぐいの反応は得られなかった。錬金術師はお金がからんだ話ではとことんリアリストなのだ。 「チアリーダー?」
「明日、芝公園周回コースで男子マラソンがあるのですわ。街道に配置するチアリーダーの人手が足りないので、戦争部のみなさんにも協力して欲しいそうですの」
「人手が足りないぃ? 何ぬるいことゆってんのよぅ。そんな分不相応な演目をやらなきゃいいんでしょうに」
「だまらっしゃい。先日の愛宕山遭遇戦。敗走兵向けの炊き出しにチア部が駆けつけてくれたご恩を忘れたのですか。それをあなたは、MIAじゃなきゃ紅茶は飲めないなどとだだをこねて人の好意を無にしたあげくに、振り回したポットで何人もチア部員を火傷させて今日の人手不足に陥ったのですっ!!」
「あ、あれ・・・・・・? そうだったっけ? う~ん、覚えてないよ??」
「わたくしが懇切丁寧に思い出させてあげますわ。なんだか今日はそんな気分ですの」
 錬金術師が長い馬上鞭を取り出す。先端に重しや棘のついたカスタムメイドだ。っていうかそれもう馬上鞭じゃないって! 佐藤さん、いったいそれ何に使ってるの!?
 芙美ちゃんもさすがに気圧されたのか、伸ばしていた戦線をいきなり縮小にかかる。
「でも世の中には忘れておいた方がいい思い出ってゆうのもあるよね。そうそう。人は忘却によって優しさを取り戻し涅槃に至るんだよ。だからあたしも愛宕山の若かりし思い出は記憶にないけれど、チア部の窮地を救うのにやぶさかではないよ」
「素直に罪滅ぼしをすると仰いな」
「で、チア部は何をご所望なんだ?」
 黎先輩が助け船を出す。

「野外演技用の用地確保か。予算不足で液状化した土地しか確保できなかったのであれば、いい固着剤が備品リストに入っているぞ。2~3日もあれば硬化作業を終了できるだろう。森林の伐採を伴うとなると少し時間が必要だ。もっとも、佐藤がデイジーカッター(BLU-82/B)を予算計上してくれるのなら・・・・・・」
 救援に現れた船は・・・・・・、悪質な泥舟だった。
「なんでいきなり話が飛躍するんですの! だいたいデイジーカッター(ペンペン草殺し)ってCCW議定書違反兵器でしょうに! 高校の戦争部に支給されるわけありませんのっ!!」
「では暗殺ミッションか。人手確保に不都合な要人を消すのだな。しかし、私の部はあいにく後ろから人を撃つ作戦は受けていないのだ」
「後ろから撃たれる専門ですもんね」
「受けていないんじゃなくて、受けるスキルがないんだよぅ」
「こぉの戦争馬鹿めっ!! うちの学校には小豆ホールがあるし、チア部のリーディングを邪魔する慈善団体などあるわけもないっ!! ひ、ひとの話を聞けっ!」
 はぁはぁと佐藤さんが暴発する。小作りな額から湯気が立つ。
「あんまり怒ると株式の神様に嫌われるよぅ」
「佐藤さん、口調が。口調が」
「はっ。わたくしとしたことが。つい狼狽してしまいましたわ」
 いや、あの反応を狼狽といっていいなら、わたしの胸だって豊満といっていいでしょう。
「部長さんがいけないのですわ。非常識なご託ばかり並べるから」
「非常識と言うが佐藤、戦争部に話を持ってきたというのは、そういうことではないのか?」
「もうちょっとありそうな可能性から探って欲しいですの。人手が足りないといっているのですから、ふつうにチアリーダーになって欲しいと何故解釈できませんの」
「チぁリぃだぁぁあ? 私がか?」
「ははぁ。あたしに男の子たちを鼓舞して欲しいんだね?」
 冷酷美人はうさんくさそうな目で、愛玩人形は得心の微笑で錬金術師に向き直る。
「え? ええ、まあ・・・・・・。そういうことになりますわね。明日というのは急なことで恐縮ですが、みなさんの無駄に高い身体能力ならなんとかなるですの」
 佐藤さんは違和感のわだかまりが胃壁を駆け上がる表情をしていたが、まだそれを飲み下すか吐き出すか決めかねている様子だった。
「なるほど、鼓舞か。それなら私にもできるかもしれないな」
 佐藤さんに逡巡の時間を与えず、冷酷美人が首肯する。
「うんうん。あたしも男の子たちを発奮させることにはちょっと自信があるよぅ」
「そういうことなら・・・・・・」
「このミッション、受けておいて損はないかもね」
 黒髪と紅茶髪の二人がポニーテールを見据える。
「そ、それは重畳ですわ。ええと・・・・・・」
「『貢献』活動とはいえ、ミッション完遂すれば何か報償はあるんだろう?」
「そのくらいはもちろんですの。運動部の覚えがめでたくなれば、今後の作戦時にも兵力動員がかけやすくなるでしょうし、生徒会としても運動部に対して言質が取りやすくなりますわ」
「ええ~~~~~っ。もっとこぅ、ごほうび的なものはないのぅ? それじゃ、モチベーションがあがらないなあ」
「・・・・・・舞風さんのモチベーションがあがる要因を、一応聞いておきましょうか」
「それはもちろん! 男子ボブスレー部の中で誰がガチかとか! 内燃機関部は4cm径のピストンをほんとうは何に使ってるのかとか! フィンランドサウナ部の監視映像は実在するのかとかそういぅことだよ!! 生徒会の幹部なら知ってるんでしょ!!!」
「そんな都市伝説を鵜呑みにするな。佐藤も困ってるじゃないか。佐藤、次の作戦で兵の増員ができるだけで十分な褒美だ。私は乗るぞ。礼を言う」
 桃色知識欲は、向けられた佐藤さんにではなく、先輩によって雲散霧消させられた。
 芙美ちゃんは口を尖らせて不満顔だったが、それでは各自チアの準備を整えて現着するように、との部長宣告で無理矢理解散の運びとなった。
それぞれに思案顔で退室する黒髪と紅茶髪を見送りながら、佐藤さんがわたしに話しかけてくる。
「あの・・・・・・、涼波さん。ええと」
 ? わたしは物思いから復帰すると、佐藤さんの小さく整った面持ちを見る。幼女の眉間にらしからぬ皺が寄っている。
「疑心暗鬼が過ぎるとお思いかもしれませんが、わたくし今のやり取りを何度も何度も反芻しましたの。いつになく・・・・・・そう、いつになくこの上なく真っ当な結論に落ち着いたはずなのに、胸騒ぎが悪阻のように込み上げてきますの」
 ああそれは・・・・・・、それはとてもいい線を突いている。
 だって二人の議論はずれていた。
 先輩も芙美ちゃんも、男の子を鼓舞すると言っていた。
 たぶん・・・・・・、
 たぶん、由々しいまでに傍若無人な独自解釈で鼓舞するつもりなのだろう。
 佐藤さんは常識人だから、悪寒は感じつつもチアリーダーという枠の中でそんなに悪いことが起こるはずがないと・・・・・・、理性が誤謬をもたらすのだ。
 わたしはその点を指摘しようと思ったのだが、
 その思いは言語になる前に原初の海に溶けて消えた。なぜならば・・・・・・、
「涼波さん?」
 微かに心配の色を帯びる佐藤さんの声も、脳梁を通り抜けていく。
 だって、
 だって、だって!
 傲岸不遜な冷酷美人の白肌と。
 芳潤柔麗な愛玩人形の乳白色に、
 クイーン・ビーの象徴たるチアのユニフォームは、
 残酷なまでに映えるだろう。
 その光景を想像してわたしは、
 鼻奥のキーゼルバッハから、朱く玄い血を滴らせた。

「佐藤さん、おはようございますっ!!」
 ゆうべは寝られなくて、集合時間より2時間もはやい午前6時に出発地点の小豆ホールに到着した。
 小豆ホールとは生徒会ホールの通称で、ヨーロピアン・コンテンポラリーな空間に、純白のジョーゼットが映える贅を尽くした講堂である。最近新築されたものだが、絶対に戦争部の全装備よりお金がかかっている。資金源は錬金術師。ご自慢の一品だ。
 命名の由来は、過去の理事長に小豆大豆朗という人がいたとか、錬金術師が小豆相場で当てた資金で建設されたとか、錬金術師こそ乳首は小豆みたいなんだろうとか、いろいろ言われている。真相は藪の中だ。
 当然一番槍だと思っていたのに、佐藤さんはすっきりした立ち姿で眠気の欠片も見せずそこに居た。
「あら、涼波さん。ご苦労様ですの。こんなに早く来てくださらなくてもよかったのですよ。昨日はお具合が悪そうでしたのに」
「あっ、あのときは失礼しました。ちょっとぼーっとしちゃって。でも、今日のチア、とっても楽しみです!!」
 佐藤さんの意図とは、ちょっと違うと思うけど。
「そんなに楽しみにしていただいて、わたくしも嬉しいですわ。そのチアのお衣装もとても似合っていま・・・・・・」
 無防備な微笑みでわたしを賞賛してくれていた佐藤さんの言葉が潰える。
 足先から上がってきた視線が胸元に届いた頃合いだ。
 ええ、そうでしょうとも。
 チアのトレーナーに袖を通す女王蜂は、ふつうは巨乳でしょう。
 佐藤さんの枯れ葉色の瞳に、出来の悪い我が子を不憫に思う母親の成分が混じる。
 うふふ。
 でも、佐藤さん。気にしないで。
 今日のわたしは胸元付近に隙間風が吹いていたって気にしない。なぜなら・・・・・・、
「佐藤さん、これを見てください!!」
「・・・・・・すわ、あの、その、ぐ、グレープフルーツは小玉の方がおいしいって。山梨の酪農家の方がっ!! え?」
 どうしてグレープフルーツが山梨で、なんで酪農家がグレープフルーツなんだとは思ったものの、そんなことは些事に過ぎない。わたしは手にしたブツを高らかに掲げた。
「そ、それは。600mmの長玉!? 天体観測にも使えそうなレンズですの! わっ、ワーキングプアの年収にもなんなんとするお値段でしょうに・・・・・・、す、涼波さんは映画撮影がご趣味でしたの???」
 んふふ、佐藤さんには盲点だったでしょう。
 チアリーディングで乳首の露出はないから。
 でも。

 女子高生が着るチアトレーナーは特別だよ。
 コスプレ風俗で体験した? ノンノンノン。
 数多の有象無象から厳選されたクイーン・ビーたちが着こなすそれは、
 トレーナーと表現するのもおこがましく。
 皇族のローブ・デコルテ、
 女王様のラバーウェアと並び立つ、
 扇情の勝負服。
 それを、先輩と芙美ちゃんが着る。
 じゅるり。
 そそる思いがそそり立つ。
 いや、わたしストレートなんだけど!
 でもチアは特別なんだってばぁああぁぁぁああああ!!!
 あれを美少女が着るとすごいんだよおおおぉうぉうおおおぉおおおお!!!!

 はっ。
 気がつくと、佐藤さんに膝枕されていた。
 細い指が水を含ませたハンカチを額に運ぶ。
 その形状は、マリー・アントワネットが提唱した通りの正方形。
 薄く上品なスワトゥ刺繍越しに、物案じな瞳が揺れる。そこに錬金術師の面影はない。
 あぁ、この人、ほんとうはいい人なのかもなあ。
「あっ、涼波さん、お気づきになりましたの。急に鼻血を出されたから心配いたしましたわ。昨日も鼻腔出血されたようですし、腎臓でもお悪いのかしら・・・・・・」
 その後に、きっとこの長玉を手に入れるのに無理をされたのねと続ける。やっぱり発想は錬金術師だった。
「だ、だいじょうぶです。ちょっと武者震いというか、今日のチアのことを考えて興奮してしまいました」
 佐藤さんが考えている興奮とは、ちょっと違うと思いますけど。
「そんなに意気込まなくてもいいんですのよ。戦争部に期待しているのは、ぶっちゃけ人数あわせというか、枯れ木も山の賑わいというか・・・・・・あら、わたくし失礼なことを申し上げましたわ」
 いいんです、佐藤さん。それがわたしの人生の役割ですから。
「ええと、そういう意味ではなくて。ちょっと顔を出したら、日陰で休んでくださっていていいのですわ。もともとチア部の人たちのタスクなのですし」
「いえ、佐藤さんに優しくしていただいたから、もう大丈夫です。先輩たちの勇姿もこの長玉で収めたいです」
「まあ、先輩思いのいい部員さんですのね。わたくし、ちょっと羨ましいですの。時雨さんたちは、・・・・・・あら? ・・・・・・あれ?」
 小鳥がついばむようなソプラノが、呼吸するごとにメゾソプラノからコントラルトへ落ちていく。
 何だろうと、わたしは佐藤さんの視線を追った。
 ちょうど、チアたちがスタート地点の小豆ホール前に並び始めたところだった。
 いいいいいいいいいいいいいっっっっやっほぅ!
 どの子もチアトレーナーの束縛感がよく似合う! 学校内人間関係序列最上位だけがまとえる特権意識と相まって、清冽に整列で凄烈だ。上位層の人間って普段こんなことしてるのかっ!! まるで別・世・界だっ!
 わたしは天を目指したイカロスのように舞い上がった。
 しかし・・・・・・、
 しかし、その中でも大層特別なのがいた。
 特別すぎて他の子が遠巻きに見てる。

 ゆるくまとめられた髪は、極上の金糸で織られた西陣のよう。
 伏せた睫は御簾の奥に座する高貴を予感させ、
 滑らかな頬は処女雪の清潔さで周囲を照らす。
 存在自体が天下に冠絶する。

 でも・・・・・・、
 装飾が最悪だった。
 なにあれ。
 年増女郎の肉襞みたいに開かれた胸元は、その谷間の陰裂を淫らに強調し、
 下乳がはみ出るほど抉られたチュニックは、頼りないほど脆弱に胸部でリボンされ、
 石油ショック時の中年親父の省エネシャツほど生地がケチられたショートパンツは、臀部の双球を隠しきれない。

ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!

 あれはチアじゃない!!
 チアじゃない。
 あれは、カウガールだっ!!! 似て非なるものだあああぁぁっっ!!
 高貴というより、珍奇である。
 芙美ちゃんのチア姿を収めるために用意した600mm/F4が泣いてる!
 わたしも泣いてる。
 う、うう・・・・・・ぅぅっ。なんでチアのよさがわからないんだよぉ。台無しだよお。
 イカロスの翼は溶けて、奈落の果てへヘルダイブだ。
 それは、
 それは男の子をチアするんじゃない。
 息子さんをチアしてしまう危険な危険物だ!
 清潔感の中に薫る雌猫の背徳がない。あれでは陰獣だ!!
 織物のような紅茶髪がオリモノに見える!
 叔父に無体な条件で借りたお金でリースした長玉を握りしめ、わたしは人知れず泣いた。泣いても誰も声をかけてくれない。存在が希薄だから。
 苦い涙が鼻腔を濡らす。
 他者との共感を求めて周辺をぐるりと見回すと、鉛の棒を飲み込んで標本箱に串刺しされた女の表情で佐藤さんが絶句していた。言葉を紡ごうと口唇をしめらせる短めの舌がちろりと蠢き、原色のオナホールみたいに見えた。
「・・・・・・な、何ぁにをしているんですのっ!!」
 一時的な失語症から立ち直った佐藤さんは、わたしを一顧だにせず芙美ちゃんに一歩を踏み出す。たぎる黒い気配に気付いたカウガールが、脳天気に破顔しておおきく手を振った!
「唯ちゃ~ん! どこにいたの」
 ててて・・・・・・と駆け寄ってくるホルスタイン。もはや管理する側なのかされる側なのかわからない。カウガールって雌ホルスタインのことだったっけ?
 そんな乳牛が射程圏内に入ると、錬金術師のクラッキング・ウィップが搾乳するかのように脂肪の塊を襲う。
「ぎゃっ。何するのよ!」
乳牛はTモーションで鞭先をかわすと抗議の鳴き声をあげた。ってゆうか、チアの基本動作できてるな、この人。
「健康的なスポーツの祭典を応援するのに、なんて格好ですの!!」
 錬金術師の桃色の肌が桜色に上気する。芙美ちゃんのお陰で佐藤さんの血の巡りは絶好調だ。
「だって、男の子たちをチアしろって佐藤さんがゆうから」
「そんなもので鼓舞されるのは、男の子の一部分だけですっ!!!」
「ふぅん??」
 透明な唾液を広角に飛ばして抗議する佐藤さんに、
 芙美ちゃんは蕩けるような水色の瞳で口角を釣り上げた。
「男の子の一部分ですって? その一部分というのは、どの一部分なのかしら」
「う、ぐっ」
「明確な指摘もなしに批判されるのは不条理だわぁ。あたしの応援が競技ではなくて、特定の部位しかチアできないというのなら、どの部位か指摘していただかないとぅ? 反省も改善もできないじゃない」
 うっすらと浮かべた陶酔は、幻の蝶を見つけた標本家の確度で。
 次の言葉を継げない佐藤さんに言い募る。
「早く指摘してよぅ。そうじゃないと生徒会のセクハラ相談窓口に相談しちゃうよ? 佐藤相談役の言動に主観的な不快感を覚えたので贖罪と賠償を要求するって」
「こ、このホルスタイン・クレーマーめっ!」
 佐藤さんは限界まで眉間に皺を寄せきった後、突然攻撃的投資家の顔になりホルスタインの脇腹によくしなる一鞭を繰り出した。紛う事なき、物理的ハラスメントである。
 乳牛は隣にいた他人の肩を勝手に借りると、ビッチ、いやいやヒッチ・モーションでクラッキングウィップの棘から逃れる。勝手に肩を拝借された小麦の肌の不幸なビッチにステゴサウルスのスパイクに似た6本の棘が突き刺さる。
 よっしゃあ! 学校内ヒエラルキーの頂点に位置する女の1人が声も出せずに吹き飛ぶのをみて、わたしは拳を握りしめた。革命って何て気持ちがいいんだ! 大貧民でもなかなか経験できないけどね!
 無駄に回避能力が高い乳牛が籠絡されるまでに、あと何人のビッチが吹き飛ぶのだろう!? わたしが期待に瞳を輝かせていると、革命の場に水を差すコロラトゥーラが響いた。
「あらあら、彩夏ちゃんだいじょうぶ? 救護班の方! 事故だわ。保健室に連れて行ってあげてください。佐藤さん、知らせていただいてありがとうございます。舞風さんも、今日は忙しいのにヘルプに来てくれて、どうもありがとう」
 馬上鞭を振り上げた純度100%の加害者に「知らせていただいて」もないものだが、秋の日が逆落としに西の大地に沈むように、その場の始末をつけてしまった。
 ふてぶてしさでは神の右側に位置しそうな芙美ちゃんと佐藤さんが、なんとなくバツが悪そうにしている。
 健やかに伸びた形のよい脚、
 シックス・パックに割れる直前まで煮染めた腹筋は、しなやかさといやらしさの非凡なハイブリッド。
 大きめの瞳は漆黒、鼻筋は通って厭味がなく、血色のよい口唇から覗く白い歯は愛らしさと意志の強さを両立させる。
 無造作っぽく、でも細心の注意を払ってエンジェル・ウイングにまとめられた髪は、およそかな羊の産毛にも、剽悍な獅子の鬣にも見えた。
 まさしくチアリーダー。
 女王蜂の中の女王蜂。
「佐藤さん、あれ誰ですか」
 学校内人間関係序列最下層に位置するわたしには、眩しすぎる。
 問う声が知らず小声になる。
「チア部のキャプテンの一月宮 実さんですの」
 錬金術師も口元に繊手をあてる。
「なんだかラスボスっぽい人ですね」
「それは失礼な言い方ですわ。でもそうですわね、一部の生徒にとても人望がありますの」
「一部の・・・・・・って、『まともな』と読み替えるところですか?」
「なんてひどい。まるでわたくしがまともな生徒に支持されていないふうじゃありませんか」
「要するに、生徒会のコントロールがきかないってことでしょ」
 憮然とした表情の乳牛が会話に割り込んできた。
 錬金術師が厭ぁな虫を発見して、キッチンから回れ右をした主婦のように振り返る。
「うっかりしてたわ・・・・・・。チアに参加するってことは、あれの指揮下に入るってことだったんだ」
「一月宮さんは別に無茶なことは仰いませんよ」
「だからこそよぅ! もともとのスペックが人として高めで、下々にも優しいなんてつけいる隙がないじゃない!!」
「つけいりたかったんですか」
「無理ですわよ」
「二人して!! なんでこんな時だけ気があってるのよぅ!」
「舞風さんは個人としての能力は高くても」
「後輩の人望を集める人格じゃないですね」
「なんで!? あたし、アナタハンの女王みたいな生き方がしたいのに!」
「ご自分の胸に手をあてて、何も感じませんか」
「胸に手をあてて・・・・・・、って。あぁ・・・・・・、乳腺が感じるかも」
「それですよ! それそれ!!」
「そんなことばっかり言ってるから、人望が集まらず、やくたいもない敗戦事案ばかりが集まるのですわ」
「むむぅ。あのアホ毛だって、乳腺は大好きなくせにっ!」
 ツインテって、アホ毛なのか。
「あんただって、妙に人望のある女なんか邪魔なだけのドラ牌みたいなもんでしょうに」
「そうは仰っても・・・・・・、休学や退学に追い込むようなネタが何にもないんですのよ、あの方」
「あれば追い込んでるんですか?」
「学園の指揮命令系統は1つあれば十分ですの」
 ひどい話である。
「男は?」
「まっとうな彼氏がいらっしゃいますわ」
「それをリークしようよ」
「周知の事実ですの。隠されていない情報を再度公開しても、何の意味もございませんわ」
 くそーっ。手札オープンの女つえぇ。芙美ちゃんが豪奢な金髪をかきむしる。確かに芙美ちゃんはオープンにできなそうなこと、いっぱい抱えてそうだ。
 ぐりぐりうんうんしていると、当の一月宮さんがやってきた。
「舞風さん、これからみんなで軽くフォーメーションの練習をするの。舞風さんなら初めてでも問題なくこなせると思うけど、一緒に合わせておかない?」
 戦争部の誰もできない、陰りのない笑みで陽の当たる方へ誘われた。
 芙美ちゃんは、はぁとか、へぇなどとはっきりしない発声でもごもごやっているうちに、連れて行かれてしまった。乳牛が他人に飲まれているところを初めて見た。
「ひえ~~~~~っ。芙美ちゃんが借りてきた猫のようですよ」
「行動の根幹に悪意がないから、舞風さんもやりにくいのですわ」
「ははぁ。芙美ちゃんにも意外な弱点がありましたね。・・・・・・ということは、佐藤さんの行動の根幹には悪意があるのですか?」
「涼波さん、何が仰りたいんですの?」
 ごごごごご・・・・・・とチープなSEを伴う幻聴が生じて、わたしは速やかに首を垂れた。そうだ! うっかり友だち気分でいたけどこの人、札束で他人の人生を張り飛ばす錬金術師だった!! わたしはだらだらとぬるい汗を垂れ流した。
 でも・・・・・・、
「えーっと。何も仰りたくはないんですけど、でも芙美ちゃんは佐藤さんと仲がよくて羨ましいなあと思って。わたし、すごく仲のいい友だちがいないから」
「な、何を・・・・・・。それこそ何を言ってるんですの。投資家に友だちなどという、余計な要素は不必要ですの。わたくしはお金にならない手駒には興味がございませんわ」
「そうですか? じゃあ、お金になるような戦争部を目指しますね」
「え・・・・・・? そ、そうですわね。それだったら、継続した関係を結べますわ」
 佐藤さんは暑気あたりしたのか、黄桃を通り越して林檎色になった頬でうつむいた。
 そうだなあ。やっぱりわたしなんかが誰かに興味を持ってもらうためには、相手にメリットがなきゃいけないんだな。端的にはお金か・・・・・・。
 お金を払ってでも友だちになりたい子が門前市をなしている一月宮さんが目の端に映って、思わず溜息が出た。
「あれ? ところで、時雨さんはおられませんの?」
 佐藤さんが場を取り繕うように、急に明るい声を出した。気を遣わせちゃったかな。
「そういえば、見かけませんね。わたしが気を失っている間にも現れませんでしたか?」
「いらっしゃらなかったですわ。困りましたね。部長さんが欠席では、チア部の方々に示しがつきませんの」
 ありゃあ、困りましたね。光子弾でも使えば駆けつけてくると思いますが。
 この場にいる全校生徒を失明させるつもりですの、などと善後策を練っているとメジャーグループの頂点が傍らに立った。
 雲量0の快晴な笑顔で、
「舞風さんは、チアが始めてとはとても思えないわ。素晴らしい勘をしているの」
 まあ、素晴らしい感度なんでしょうが。
 それより、一月宮さん。研磨剤入り歯磨き粉のCMに出ませんか?
 などと人生の表街道を歩んでいる人につまらない冗談を飛ばせるわけもなく、
「部長が遅刻しているようなんです。時間にルーズな人ではないんですけど・・・・・・、申し訳ありません」
 謝った。メジャーグループ相手には謝っておくのが下位階層の処世術だ。
「きっと何かやむを得ない理由があるんだわ。もし間に合ったら後からでも参加してもらいましょう。わたしたち、そろそろ出番だから行きますね」
 あとで感想を聞かせてね、と屈託のない声をかけられた。駄目だ、まぶしくて目に悪い。
 隣を見ると佐藤さんがでかいファッショングラスをかけていた。DKNYだ。
「やっぱり目に毒ですか」
「耐ショック耐閃光防御が必要な状況というものを、初めて経験しましたわ。苦手ですわ、ああいう人種は」
 屈託がなさすぎて・・・・・・、と続く。確かに佐藤さんの青春は屈折しすぎて、視界の悪い反射望遠鏡のようになっていることだろう。
「あっ、始まりましたわよ」
 反射鏡の屈折率を計算していたわたしを、佐藤さんの声がたたいた。

 チア部の女王蜂たちが、スターティングサークルを形作る。
 ダイアグナルから入って、ダブルベース・サイ・スタンド。
 よく訓練されている。うちのチア、レベル高いんだな。
 見た目の水準もいい。
 色白に、褐色に、麻色に、
 黒髪も、茶髪も、紅髪さえいる。
 この場に居ながらにして、六カ国巡りだ。
 溌剌とした奇麗どころがポンポンを振り回しつつ、ショルダースタンドやエレベーターを繰り出すと、この世に不可能はないんじゃないかと思える。
 不可能だらけのわたしからすれば、度し難い。
 あ~あ、どこで人生違っちゃったのかなあ。
 落ち込んでいたら、発砲音。
 ぐわっ、と。
 チアスカの裏地に吊っていたベレッタを引き抜いた。
 音源の10度上方へ向けて牽制射撃。2連。
 我ながらいい反応。黎先輩に鍛えてもらった成果がでてきたなっ。
「ちょっ、ちょっと。すずなみさんっ!!」
 いい気分で接敵しようとしたわたしの腕を佐藤さんがつかむ。
「あっ、佐藤さん。民間人は伏せていてください」
「民間人は、じゃないですわっ!! そんな物騒なもの、引っ込めてくださいな!」
「でも今、襲撃が」
「あるわけないですのっ! マラソン競技スタートの号砲です。号砲っっ!!」
 あっ、なーる。というのは排泄にも秘め事にも用いる素敵な両用器官のことではなく。
 ましてやミャンマーの言語のことでもなく。
 わたしの理解が現実に追いついた感嘆符だった。
「もう! それ実弾じゃないですの! 生徒に当たったらどうするんです」
「返す返す、申し訳ございません・・・・・・」
 しゅんとなったが、チアリーディングと応援の生徒たちの歓声で、この事態に誰も気付いていなさそうなのが救いだった。
 薫る風が硝煙の香りを霧散させていくなか、先頭集団のランナーが通学路を駆け抜ける。
 アスリートの本気疾走ってこわいんだよなあ。人間とは思えない速度と迫力が地軸を揺るがす。まっ、あれだけ早くても追撃戦では背中から撃たれて死んじゃうんだけどね。
 わたしは未来の戦死者たちを品定めした。すると、
 きゃああああああああ。
 黄色い。
 そう表現するのがまさしく似つかわしい、喚声がこだました。
「うわあああ。ほっ、歩兵分隊の突撃ですっ!!」
「落ち着いてくださいな涼波さん、イケメンランナーに女子生徒が反応しただけです」
 おち・・・・・・、のあたりで佐藤さんの重い右裏拳が腹部にヒットし、言葉の意味よりも体反応で落ち着くことができた。何? イケメンとな?
「よかった。背後から奇襲をくらったのかと思いました。生きた心地がしません。ところでイケメンはどこですか?」
「なんだかずいぶん戦争部に染まってきましたねえ、涼波さん。初めてお目にかかった頃は、もう少しうぶなお嬢さんに見えましたわよ」
えっ、うぶなお嬢さん? それ、もう一回言ってもらえますか?
「・・・・・・ほんとうに戦争部に染まってしまったんですのね。ああ・・・・・・、人生は後戻りできませんの。ほら、イケメンはあそこですわ」
おお。長身でしなやかな筋肉を躍動させている、一際目立つランナーが先頭を切っている。いかにもヒトラーが好きそうな体型だ。さくっと視界から消えていったので、顔はよく拝めなかった。
「ああ・・・・・・、行っちゃいました。お顔はわからなかったですけど・・・・・・」
「変に興味を持つ必要はないですわよ。一月宮さんの彼氏さんですから。確か島風さんって仰ったかしら」
「速そうな名前ですね」
「量産できないのが難ですわ」
それで喚声があがっていたのか。チアの応援も破格だった気がする。一月宮さんが気合いを入れていたのだろう。
大集団が去ったためか、チアリーダーたちが次の応援ポイントへ移動し始める。
「さて、わたくしたちも行きましょうか」
錬金術師はあくびをかみ殺すように言った。
「島風型はたまに冷やしてあげないと、走れなくなりますからね」

 バラモン並の高階級者であるチアリーダーさんたちにはマイクロバスの足が用意されているが、当然わたしにはそんなものはない。
 黎先輩による20km山岳走破訓練を思い出して、げっ、フルマラソンってあれの倍あるのか、もう帰っちゃおうかなと帰宅の心づもりを決めていると、
 奢侈千万なストレッチのマイバッハが小豆ホールのファサードに横付けされて、攫うようにわたしと佐藤さんを乗せていった。
 ひょっとしてこれ生徒会相談役専用ですか? と喉元まで何度も疑問が込み上げて、最終的には嘔吐感と区別がつかなくなったが、人外魔境に踏み込んでしまう恐ろしさを予感して言い出せずにいるうちに、第二応援ポイントについた。
 すでにチアたちはフォーメーションを組み始めている。
 傍らで別のものを組み上げている人たちもいる。
 それはいい。
 ランナーにドリンクを配る給水地点である。
 しかるべき人選によって、しかるべき人たちが、しかるべき飲み物を粛々と準備している。
 だが、
 その中に発情したホルスタインが混じっている場合は話が別である。
「あっ、またあんなことを」
 最近、動体視力が発達しつつある佐藤さんが目聡く見つけて接敵する。
「ちょっとちょっと芙美ちゃん」
「あっ、唯ちゃんどうなってるのよぅ。唯ちゃんもチアのメンバーなのにちっともやってこないから寂しかったよぅ」
「げっ、そういえば」
「そういえばじゃないよぅ。なんだかあたしはあの人たち苦手だよぅ」
「なにを殊勝なことを」
「いたのか雌狐」
「急に殺意のこもった視線を伸ばさないでくださいまし! まったく協調性のない人ですわね。ポンポンの扱いは一月宮さんも褒めてくれていたのに」
「ポジティブな思念に触れたのが久しぶりだったから、急性ポジティブ障害を起こしそうだよ。うえっ、吐きそう」
「「悪かったですね、ネガティブで」」
「別に責めてるわけじゃないよぅ。あたしはネガティブな人たちの間で光り輝いてる方が心地いいんだから」
「佐藤さん、やっぱり殺っちゃってください」
「心の底から同意しますわ」
「わっ、待って待って! それよりちょっと手伝ってよ」
「何をですの」
 スペシャルドリンクの配布だよ。カウガール姿のホルスタインは天命を告げるように宣った。
「えっ、スペシャルドリンクですか? 給水所で配ってるのとは別に?」
「あたしお手製の一品ものだよぅ」
「そんなこと頼まれてましたの?」
「ポンポン持って踊るばかりが鼓舞の方法じゃないでしょう。あたしはあたしなりに考えてるんだよぅ」
 ふぅ~ん、と胡乱な目つきで佐藤さんは芙美ちゃんを見つめたが、
 ドリンクの配布には異を唱えなかった。一度準備したものを無駄にするような感性は持っていないのだ。
 と、
 どどどどどっ。
 先頭集団が不意に走り込んできた。
 わっ、来ちゃった。早く配らないと余っちゃう。芙美ちゃんが慌てると、
 何? 余る? 無駄?
 決して大きくない枯れ葉色の瞳をぎりりと釣り上げて、佐藤さんがスペシャルドリンクをにらみ据える。
「わたくしの管轄下で無駄など発生させませんの。涼波さんも手伝って! 早く配ってしまいましょう」
 ぽんとディスポーザブルの水筒を渡される。あわあわしているうちに、狂気のごとく先頭集団が迫ってくる。林立する左手。息つく暇もなく、水筒を手渡す。
 溜めていた息をやっと吐き出して、額の汗を手の甲で拭うと、芙美ちゃんと佐藤さんも顔を赤くして喘いでいた。
「重労働だったねぇ」
「いい汗かいてしまいましたわ」
「ちょっと変則でしたが、確かに選手のみなさんを鼓舞できたのではないでしょうか」
「そうですわね、今回は悪くなかったですの」
「でしょう? あたし気が利く女なんだって!」
「気がふれるの間違いじゃないですの」
「まあまあ。あ~、のどがからからです。まだ2本あるから、いただいちゃっていいですか?」
「もちろんよぅ。ぐいっといっちゃって」
「いただきま~す」
 スライドノズルからストローを引き出して、一口ふくむ。
 火照った身体にアイソトニック飲料が爽快に浸透・・・・・・・・・・・・しなかった!!
 げほっ、げほっ、げほっ、ぐえええええぼおっっ!!
「す、涼波さん! どうしましたの!? またお具合が!??」
「唯ちゃん、大丈夫!?」
 こ、こ、こ、
「こ? こ? こ? ・・・・・・今度産むからコンドぅム?」
「違います! これ、なんですか? 破天荒な刺激が鼻を通り抜けていきましたよ!?」
「う? 唯ちゃんが持ってるのは・・・・・・、バイアグラ粉末の出し汁?」
「ちょっと待ったぁ! 舞風さん、そんなものを何の目的で配布したのです??」
「およよ? 男の子を鼓舞しろってゆったの、佐藤さんじゃない」
「だから鼓舞するところが違うんですってば!! 他に何を配ったのです! 仰いなさい!!!」
「え、え~~っっっと。チョウセン朝顔の筑前煮風味と、フリバンセリンのステロイド添えキャラメリゼ」
「妙に家庭的ですね」
「いい奥さんになれそうでしょぅ?」
「いえ、そうじゃなくて・・・・・・」
 諦めたように舌打ちした佐藤さんが個人端末を取りだして、バーティカル通信を起動させようとしたとき、
 聞き慣れた断罪のアルトが。
「待ちかねたぞ!!」
 よく育った椚の枝の上で立ち上がったのは、
 ・・・・・・戦場の有翼神だった。
 暑苦しい第二種セーラー服を着て、絶妙の依託射撃姿勢でXM-8を構えている。暑くないのかな。そういえば前に「夏と戦争映画は長ければ長いほどいい」って言ってたからなあ。いやいや、いま引っかかるべきはそこじゃない・・・・・・XM-8?
「あれ? 時雨さん? なんで?」
 佐藤さんは混乱している。
 わたしは・・・・・・、
 わたしはがっかりした。
 ふつうの格好じゃん!!
 先輩のチアが見たかったのに!
 男の視線に媚びるチアトレーナー、チアスカ、ポンポンの3連コンボは、クールビューティの硬質さとせめぎ合い、破格のミスマッチ・マッチを演出しただろうに!! 空気読めないなあこの人は!
 わたしがチアトレーナーを持って駆けつけるかどうか二の足を踏んでいると、
 樹上のアテナは無造作にXM-8を広角掃射した。
 ぎゃあああああああああああああああああっっ!!
 魂切る悲鳴が快晴の空に響き渡る。
 ストライド走法に入っていた選手たちは、一瞬豆鉄砲で直腸をえぐられた鳩のように静止したあと、
 蜘蛛の子を散らす全力疾走へ移行した。
「わははははははははは!! やればできるじゃないか! もっとだ! もっと疾走れ!!!」
 先輩は優美な扇運動で射界を変えると、
 羊を追い込む牧羊犬のように、
 鮎を絡め取る巻き網のように。
 おびえた選手集団を最速のゴールへ誘導する。
 驚愕のピッチを繰り出す足下に、
 9mmのパラベラムが督戦の王冠を描く。
 コースをはずれる選手は、
 曳光弾の一斉射でナビゲーションされる。
 このペースなら・・・・・・、
 世界新も夢じゃない!!

 かつんと硬い音がして、有翼神がほんとうに翼をひと打ちしたかのようなしなやかさで地に舞い降りる。そして哄笑した。
「どうだ、佐藤!! 私の鼓舞は完璧だったぞ! どの走者も自己ベストを大きく更新する記録を叩き出すだろう!」
「叩き出すだろうじゃございませんの!! いっ、いまの暴力行為はなんですの?」
「なんですの? って応援に決まってるだろう。男たちを鼓舞するのは後がない状況だ。クラウゼヴィッツも指摘している!! 背水の陣だ! 私はそれを敷いてやったのだ」
 筋の通った嗜虐の鼻は、いまや有頂天で反り返り、
 薄灰色の瞳は、戦意をフランベして灼けていた。
「なんてことを! 銃身が焼けるほど斉射して、あれ、絶対怪我人が出てますわよ!」
「競技で怪我など当たり前だろう」
「その認識は間違ってますの」
「あの・・・・・・」
「どうした、唯」
「ええ。ちょっと気になるっていうか。気にした方がいいって言うか」
「奥歯に物がはさまっていますわね」
「はっきり言ってみろ」
「さ、さっき芙美ちゃんが、選手の人たちに精力剤を飲ませていましたけど」
「意味がわからん」
「元気よく戦ってもらおうと思ってぇ♡」
「なるほど! 賦活剤を与えたわけだな! 理にかなっている」
「これはほんものの戦争の、しかも決戦前夜の話ではありませんの!」

で! ですね・・・・・・、賦活剤を入れた後にアドレナリンが体中を巡ったりすると、その・・・・・・」
「その?」
「・・・・・・抑制系のシナプスって、ほとんど飛ばなくなるんじゃないでしょうか」
 わたしたちは、
 沈黙の魔法をかけられたパーティのように音を失い、
 あり得ない善後策を求めて激しく視線を交換する。
 胡乱な数瞬が飽和しそうになったそのとき・・・・・・、

 いやあああああああああああああっっっ!!!
「選手が! 選手たちが女の子を襲ってる!!」
 破局の水を溜め込んだダムが決壊した。

「まずい! レイプが起こると、占領地政策が難しくなる!!」
「いえ、占領しませんの」
「芙美、唯! 続けっ!!」
「はいっ」「よっしゃぁ!」
 駆けだした。
 群衆の雲を抜けると、
 ランナーと女子生徒たちのくんずほぐれつが見える。
 先輩はXM-8で、
 芙美ちゃんはユンケルの御味御汁で、
 わたしはベレッタでそれぞれ狙いを定め。
 発砲した。

 ぜえぜえ。
 ず、ずいぶん撃ちましたね。
「まったくこいつら、頭が沸いてるな」
「誰が沸かせたんですの」
「至近距離から叩き込まないと、正気にもどらなかったもんねえ」
「残敵に気をつけろよ。まだいるかもしれないぞ」
 びくっ。近接戦闘に弱い佐藤さんが怯えを示すと、
 しくしくしくと恨みがましい泣き声が・・・・・・、
「ひ、人の泣き声が聞こえます」
「えっ、まさかほんとに・・・・・・犬に噛まれた的な子がいるの?」
「どこ?」
 全員の視線が沿道の東屋に集中する。
「あの裏かなぁ?」
 芙美ちゃんの推定に、戦女神が神速で貧相な間仕切りに接遇する。
 せーので、東屋を蹴り上げると、

 男が腰を使っていた。
 椚の倒木相手に。
 その前で一月宮さんが号泣している。

「どっ、どうしたの一月宮さん!!」
「性器に裂傷はないか!」
「あたしのポーチに産み分けゼリーが入ってるよ!」
 女の子ならピンクを、男の子ならグリーンを・・・・・・と続ける声をクラッキング・ウィップの風切り音がかき消し、お門違いな提案が黙殺される。
「島風くんが、しっ、島風くんが・・・・・・」
 倒木と愛し合ってるよう。
 消え入りそうな涙声が続く。
 戦争部と生徒会相談役は、慄然とした。
「こ、これは」
 傲慢な黒髪がいやな汗を流し、
「予想を超える事態ですの」
 不遜な投資家は金で解決できない事案に恐怖し、
「う、うわぁ・・・・・・。目の前に彼女が居るのに、木と励んでるよぅ↓」
 至尊の変態までもが気の毒そうに口元をゆがめる。
「仕方がないな。切り札を切ろう。おい、島風!!」
 有翼神はかくかくと腰を使うイケメンに近づく。
「な、なんだ邪魔する気か。後生だから、・・・・・・後生だから思いを遂げさせてくれええっ!!」
「駄目だ! こんなことを許しては戦場の規律が維持できん! これを喰らえっっ!!!」
 ごぶっと島風くんの口に、鈍色に光る粉末が。
 帝国海軍一の快足を誇ったフネと同じ名字の島風くんは、
 白目を剥いて腹上死した。

「何を使ったのぅ?」
 戦後処理をする、とぷりぷりした錬金術師が帰っていくと。
 紅茶髪のホルスタインが、紅茶を淹れながら黎先輩に聞いた。今日はリプトンのイエローラベル。予算不足か。
「亜硝酸だ。兵の性欲管理に使う」
「うえ? あれってインポになるんじゃ・・・・・・」
「それ以前に多種多様な健康被害が報告されていますが」
「緊急避難だ! 仕方がなかろう。もうちょっとで思いを遂げてしまうところだったぞ」
「いっそ、遂げさせてあげればよかったんじゃ・・・・・・」
「一月宮が不憫だろうが!!」
 わたしは芙美ちゃんと顔を見合わせた。
 それは、どう転んでも不憫には違いない。

 でも・・・・・・、
 泣き濡つ美少女の表情はなかなかよかったな。
 わたしはあの光景を思い出す。
 チアリーダーも泣くのか。
 女王蜂にも、思い通りにならないことがあるのか。
 ふひひ。
 混乱のなかで、
 活躍する暇のなかった600mm/F4が。
 打ち萎れた花の美しさを纏う一月宮さんをの時間を四角く切り取ったことは、
 木洩れ日とわたしだけのひみつだ。





脚注

蟹工船
 プロレタリア文学の白眉。舞風の愛読書だが、佐藤の名も学院図書室の貸出履歴にクレジットされている。人を人とも思わない劣悪な労働環境を描いた作品だが、一方で人権意識に目覚めていく労働者たちが妙にリア充っぽくもある。

デイジーカッター
 ここでは米軍のBLU-82/Bのこと。その名の通り、密林を焼き払って自軍に有利な戦域を作ったり、自軍設備の設営準備をしたりするのに用いる。

CCW(特定通常兵器使用禁止制限条約)
 焼夷兵器、失明可能性レーザー、ブービートラップ等を禁止した国際条約。要するに戦場における偽善。

クイーンビー
 女王蜂。学校内カーストにおける女子最高位。男子最高位はジョック。主に米国で用いられる言葉だが、人の階層に敏感な涼波が勝手に使っている。過度な平等主義はぼっちに厳しいので、学校内はある程度カースト化され、同じ階層の人間同士で集まっている方がよいとする指摘もある。

キーゼルバッハ
 鼻の静脈集中部。鼻血が出るときはたいていここが破れている。時雨の弱点だが、舞風も意外と出血が多い。

クラッキング・ウィップ
 派手な音を立てるしなやかな鞭。どんな用途に使うかは、言うまでもない。

コロラトゥーラ
 人生の主役を自認している女が出す声。

一月宮 実(みのり・みのり)
 チア部のキャプテン。人生の主役を自認していたが、ある事件をきっかけに人間不信に陥り、抗不安剤を多用するようになる。

アナタハンの女王
 終戦間際の激戦を傍目に、マリアナ諸島の無人島であれやこれやのハーレム事件。戦争の被害者であることは間違いない。

島風
 帝国海軍の一等駆逐艦。3000t級。ロ号艦本式3基で40.9ノットを叩き出す、帝国海軍の最速艦。量産されずに終わった一品もの。

マイバッハ
 超のつく高級車。堅気の仕事でなかなか買えるものじゃない。

気が利く女
 戦争部周辺では、人としての価値を決める属性の一つとして考えられているようである。だが、本当に気が利く女は、もう少し手を汚さない人生を歩む気もする。

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